FUKUOKA MEDIA ANGLERS CLUB
入院顛末記 井田敏
 
 ゴールデンウィークは頻脈で始まった。
 少し風邪をこじらせているようだとは思っていても、いざ何か異変が起きない限り、人間はなるべく自分の都合の良いように考えがちである。
 酒も飲まずに夕食を終え、書斎の椅子に陣取っていると急にくしゃみに襲われた。途端に心臓が頻脈である。またいつものことと、しばらくは様子を見て、セルシン2ミリを2錠飲んだ。これで大抵の場合は効くんですが。
 小一時間ほどたっても発作は治まらないし、そのうち例のズーンとくる脱力感がやってきた。あ、これは血圧低下だ、入院でないと手の打ちようがない。ムダな抵抗は諦めよう。以前に同じような発作を起こして、血圧が50を切った時の、なんとも形容できぬ感覚が脳裏をよぎる。下手をすれば死んでいたよ、とホームドクターにして友人のY医師に釘をさされていたのであった。
 
 ホームドクターのところへ行くか。彼のことだから、酒席を中座し、会合を中断し、跳んで帰ってくれるに違いない。あるいは子供達も集まって連休だろうし、孫たちの顔に相好を崩している友人の貴重な時間を奪いたくない。普段から患者第一で自分は休みもとらず、ゴルフさえもしない彼は、希有な休息を確保する権利が充分にあるではないか。後で、きちんと報告するようにして、行く先を決めた。よし、この発作で一度厄介になったことがある医師会の救急診療センターに行こう。百道浜まで30分あまり、女房の運転で横になって夜道をたどる。

 時おり目を開けると電飾の色がにじみ始めていて、あ、やっぱり血圧低下だと悟った。こうなれば当直の先生の貴重な個人的時間を占拠するのもやむを得ないか。
 救急診療センターで担当してくれた女性の医師は、心電図、点滴と手早に対処してくれたが、看護婦さんとの会話が耳にひっかかった。「白血球が二万以上もあるしこれは観察治療が出来るところでないと・・・」
 白血球の異常増加が、体の中に炎症を起こしている証拠の一つぐらいは、素人にも判る。やっぱり、来たか。
「今、点滴は始めましたけれども、これは反応を見ているためといったほうがいいでしょう。それよりも白血球の数が、急増しているので、肺炎の疑いがあって、監視治療をしなければ、と思います。この診療センターではそれは出来ないので、お近くの病院に救急車で・・」と言うことになった。

 キューキューシャ。いやです。恥ずかしい。世間様をお騒がせする。仰々しい。そんなことが一緒に頭にあって、「あのぅ・・自分の車があるんですが」と言うと、「ええ、こういう時は救急車で搬送というきまりになっていますから」さらりとおおせられた。ただ行く先だけは定期的に診察を受けに行く国立病院にしてもらう。なぜかというと、第一候補に上げられた病院は老人専門、リハビリ病院みたいなところだったから、ここでは安心して、というわけには自分が納まらなかった。

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