シマノジャパンカップ投げ釣り選手権、関東大会。この日を我々関東のキャスター達は一日千秋の思いで待ち続ける。21世紀最初の大会が今年は5月20日に行われた。この大会はある意味では日本一過酷な大会である。ただでさえ魚影の薄い関東の海でシーズン序盤の5月半ばにキスを数釣るのは至難の業である。また、会場となる千葉県保田海岸が狭いため、ほとんど2メートルに1人の割合で人が立ち釣果を競い合う。それでも6色(約150メートル)以上投げることが出来ないと、かなり決勝に進むことは難しい。近場を丁寧に探る手もあるが、前に述べたように、人がひしめき合う状況ではかなりのリスクが伴う。正確に真っ直ぐに6色以上投げ、きわめて丁寧にさびく技、そしてポイントをいち早く見極めそこで食わせるテクニック・・・どれが欠けても上位進出は難しい。
毎年の全国大会で必ずしも関東の代表が上位に来るわけではない。しかしそれは全国大会が良く釣れる地方で開かれるため、日常から数釣りの経験がつめるキャスターが有利だからである。今や関東では投げ釣り発祥の地、湘南でも真夏に一日粘って一桁という日も珍しくない。寂しいことだがそれが現実だ。そんな釣れない砂浜で関東のキャスターはかなり繊細な釣りを強いられている。釣れない所で釣るテクニックは日本一だろう。
そんな猛者達が集まる関東大会。これまでジェリーは5回、國も6回ほどチャレンジしているが、参加者150人中20人の決勝大会に出たことはない。しかも、この決勝は昨年全国大会に出た人でも落ちてしまうほどの高レベルなのだ。この5年間、我々はこの関東の決勝に出ることを目標に、真冬も湘南に通い練習してきた。しかし、我々はメディア関係の仕事ゆえ本当に休みが無い。月に1度釣りに行ければ良い方という状況で、いつも自分の技量不足を反省しながらこの大会を戦ってきた。
今年は2年ぶりにジェリーと國、LKサーフの2人(LKサーフは現在会員2名の弱小クラブ、FMAの前身だ)が揃って出ることが出来た。久しぶりに気合十分で大会に臨む。湾岸高速を飛ばして早朝に千葉を目指す。エサはなるべく会場の近くの釣具店で買うことにした。普段、千葉はめったに行かないので情報が欲しかったのだ。保田海岸近くの釣具店でエサを買いながら、この数日の状況を尋ねると、どうやら海岸の左側の小さな川の流れ込み付近の状況が良いらしい。我々はかつてこのポイントに入ったことが無いのだが、今回は釣具店の親父の言葉を信じてそこにしようと決めた。
朝の5時過ぎに保田海岸到着。そこで湘南の釣り名人、清水さんに頼んでおいたエサ、東京スナメをもらう。このエサは特に大型のキスには有効なのだが、横浜、川崎に住む我々には入手困難なエサだ。わざわざ我々のために買ってきてくれた清水さんに心からお礼を述べた。この清水さんは、昨年の全国大会にこの関東代表で出られた方だ。釣技、人格共にとても尊敬できるキャスターである。
大会本部で受け付けを済ませ、竿を組み立て準備する。15分前、本部前に集合、挨拶の後、タックルチェックを受け、静かに時を待った。
「ポイントは左の川付近でいいよな?」
再度、國に確認する。
「ああ、どうせ行くなら一番端に行こう。」
「わかった、じゃあ、俺のクーラーを持ってきてくれ、俺は全力ダッシュで場所を取る。」
「OK!」
5分前、移動開始の合図が鳴る。皆いっせいに走り出す。俺は高校時代100メートル11秒8の快速を飛ばし釣り場へ急ぐ。しかし、きつい・・・。普段の運動不足で衰えきった体力では400メートル先の釣り場がものすごく遠い。4,5人が同じペースで走ってくる。最後の力を振り絞り俺は駆け抜けた。その甲斐あって、最も左側のポイントを得る。
「やった!」
釣れると決まったわけでもないのになぜか気分が良い。しかし、このポイント選びが大きくものを言うことになるのである。
午前6時、爆竹が鳴り響き予選スタートの合図。皆一斉に投げる。開始早々、國本命のキスを釣り上げる。周りからはどよめきの声!それもそのはず、まだ周囲では1匹もあがっていない。
「俺はよく早々と釣るんだよね。この後が大事。」
と國は兜の緒を引き締める。左の川からの流れ込みが良い潮目を作っている。海底の様子もやはり川側の方が複雑で、かけあがりの状態も良い。何より競技エリアの端なので少なくとも左にライバルはいない。程なくして國が今度はダブルで上げる。周囲の目が点になっている。皆なりふりかまわず我々のポイントに入り込んでくる。まさに戦いだ。そのうちジェリーもキスを釣り上げ、大変なことになってくる。
「やっぱりこのポイントが当たりだったね。」
情報を的確に釣果に結び付ける我々LKサーフにもはや敵はいなかった。しかし1キロ以上もある海岸線の左端で勝っても、全体の釣果はわからない。國は黙々と釣果を重ねて行く。ハイライトは終盤に来た5点がけ、周りからは
「もう良いでしょう。」
の声が上がるほど國は飛ばしていた。
この日の國の仕掛けは湘南キス5号5本鈎、食い込みを良くして多点掛けするつもりだ。ハリスはアクアキング1号、モトスホンテロン1.5号。ジェリーは湘南キス6号と鈎を1ランク大きくして4本鈎、エサを大きく見せる作戦だ。ポイントはほとんど5色半から6色のかけあがり付近。2メートルおきに人が入るので絡まずにこの飛距離をキープしつづけるのは至難の技だ。近所の近場狙いの人にはほとんど釣れていない。
午前9時、1次予選終了の合図。國は15匹でこの辺りではダントツのトップ、ジェリーは4匹と予選通過が微妙なラインだ。國は余裕、少なくとも決勝には行けるだろう。2人で検量所へ向かう。200人近くが並ぶ検量所でもどうやら國はトップクラスの釣果のようだ。
30分後予選の結果が発表される。何度も言うが我々弱小クラブの2人にとって、ジャパンカップの地区予選決勝に出ることは夢だった。決勝に進めるのはわずか20名、そしていよいよ結果発表だ。順位が白板に書かれ始める。1位と20位上下から同時に書き始めるのだが、な、なんと!!!
その一番上に國の名前が!!!
決勝に出るのが目標だったのに1位通過とは!おそるべし国、この全国1ともいえる激戦区の関東予選で1位とは!298グラム、2位の209グラムを大きく引き離しての堂々たる1位だ。後はジェリー、そして、な、なんとジェリーも123グラムで11位、予選通過だ!!人員2名のLKサーフ2名揃っての決勝!快挙である。しかし喜んでばかりもいられない、間もなく決勝、こうなると欲が出る。
「目指せ全国大会代表!」
我々はTちから糸Uを結び直し、決勝に備えた。
決勝戦に出場する選手がコールされる。1位、國。選手団の先頭に並ぶ。何と晴れがましい光景だろう。九州の福岡から上京し、関東とのレベルの差を痛感しながら切磋琢磨してきた甲斐があった。
「ようし、次は全国だ!」
俺達はもう次の目標に狙いを定めていた。
午前10時、いよいよ決勝が始まる。決勝戦の場所選びは予選成績の良い人に優先権がある。國は迷わずおなじ場所に向かう。そのおかげでジェリーも朝と同じあ辺りに入ることが出来た。やはり予選は上位で通過するに限る。と、もう決勝常連のようなことを言い始めるお調子者のLKサーフだった。再び爆竹の合図で決勝がスタートする。やはり200人が戦った後だけに場荒れが激しくなかなかキスがあがらない。遠投、近投してポイントを探るがなかなかポイントが見つからない。その中でやはり國が本命を釣り上げる。
「この男すごいな。」
周りの選手の焦りが見える。群れは朝より一段と小さくなっているようだ。更に國が2匹目を上げる。周りの状況からしてトップクラスなのは間違いない。
しかし、全国が見えたそこに落とし穴があった。痛恨のライントラブル。仕掛けを作りかえる時間がもったいなく更に焦りを呼ぶ。しばらくして、またライントラブル!ここで焦っては行けない、ポイントは間違いない、エサも良好だ。しぶとく國がもう1匹上げる。すげえ、本当に全国に行くかもしれない。上位3名に入ることそれがオールジャパンの条件だ。ジェリーも1匹やっとキスを上げる。周りはほとんど釣れていない。1回でもダブル、トリプルがくれば・・・まだ誰にでもチャンスがあった。國はその中でトップ集団を走っている。残り時間10分・・・決定的リードを奪った選手がいる様子でもなさそうだ。背後のギャラリーも注目している。予選トップだった國には多くのギャラリーがついている。いきなりのオンステージ!我々はこんな状況で戦ったことが無かった。
「ブツッ!」
にぶい音を立てて國の力糸が切れる。うわーなんてこった、ギャラリーからもため息が漏れる・・・なんとか仕掛けを作り直し最後の1投、その直後にに終了の合図。仕掛けを上げる國、頼む、小キスで良い、ついていてくれ・・・しかしその願いもむなしく國は4匹で決勝を戦い終えた。ジェリーは1匹ちょっと、可能性はない。しかし國はまだわからない、きっとグラムの勝負になるだろう。緊張の面持ちで検量所に向かう。20人が並ぶが、3匹以上の人はほとんど見当たらない。もしや、可能性が・・・本当にグラム勝負になった。そしていよいよ発表。ジェリーは1匹ながら27グラムで13位。14位とは1グラム差だ!國は72グラム、果たして何位なのか、1位113グラム、2位105グラム、おおっ!3位96グラム、4位72グラム!惜しい、何と24グラム差で4位、次点となってしまった。あと1匹釣れていれば・・・夢の全国が・・・。
しかし明日があるさ。
我々は今日の健闘を称えあった。しかし國は悔しそうだ。無理も無いオールジャパンまで後1歩だったのだから・・・そして表彰式、4位の國にはギャラリーからひときわ大きな拍手が起こった。いきなり初登場でダントツの予選1位、注目も高かったのだ。
2001年5月20日、シマノジャパンカップ投げ釣り選手権関東大会、千葉県保田海岸。LKサーフ、2名しかいないクラブが関東で暴れた日・・・この日はLKサーフそしてFMAの栄光の1ページとして長らく語り継がれるだろう。
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