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ラスト渾身の1投!
東側を見るとかすかに砂地が出た部分が見えた。
「どうしよう、ここでさっき釣れたし・・・しかし足場が悪くあれ以上の飛距離は自分の今の技量では望めない。えーい移動だ!
最後の10分を切ってさらに小移動、ラスト1投に勝負をかける。
「石に引っかかってもいいから、回転で投げちゃえ!」
うまいこと石には掛からずきれいに真っ直ぐ飛んだ。いった6色、糸ふけをとり丁寧に丁寧にさびく5色ちょいでかすかな当たりがある。残り5分、4色までさびいた。
「よし、あげよう!」
頼む、釣れていてくれ、あと外道ではありませんように!祈るような気持ちで仕掛けを上げる。少しだが重みを感じる。何か付いていることは確かだ。波口からカイソー天秤がみえるその先に!
「茶、茶、茶色い!」
ガーン・・・結構いい型のメゴチが見える。
「あーあ、めごちで終わりかよ」
まあしょうがない、当たりがあっただけでも期待させてくれたし、楽しませてもらったなと思ったそのとき先針にキラット光るものが・・・・ピンギスがついてるう!!!!かなり小さいけど確かにキスだ。そのワカサギのような魚体を必死でつかんでクーラーに入れ、検量所へ走った。
グラムの戦い!
「やった4匹、やった4匹!」
走りながら俺の心は躍った。
「もしかしたら、もしかするかも・・」
検量所につくとほとんどの人が到着してビニールに入れたキスを持って並んでいた。ガーン!皆結構釣ってるじゃない!確かに1,2匹の人がほとんどで、まったく釣れなかった人も多数いるようだが、俺の周りには5匹、6匹と釣った人が何人も入る。また、1匹でも25センチ以上の丸々と肥ったキスを入れている人もいた。
「あれだと1匹で150グラム以上あるなあ・・・」
自分のキスはというと4匹ながらほとんど小ぶりで特に最後の1匹はワカサギサイズ
「150あるかなあ・・・」
とにかく並ぶ5分ほど並んで順番が来た。
「ゼッケン163番、4匹、143グラム。」
あーあ、150もないのか・・・これはだめだな。諦めムードでタックルを片づけているとさっきの人が話しかけてきた。
「あの後どうでした?」
「いやあ、一応きましたけど・・・」
「すごいですね」
「でも全部で143グラムなんですよ、でかいの1匹にも負けますね」
「ああ、150いきませんでしたか・・でもギリギリかもしれませんよ、私は1匹でしたから飯でも食べて、決勝をゆっくり見学していきますよ。出れると良いですね」
心優しいなぐさめをかけて彼は去っていった。ゆっくり煙草を吸いながら海を見た。濁りの行った海も遠くから見るときれいだななどと思いながら、その時を待った。突然後ろの方が騒がしくなる。どうやら結果発表が行われるらしい。前回の関東大会ではいきなり国の名前がトップにあって本当に驚いたなあ、などとおもいながら人込みを掻き分けて白板を見た。
「えっ?」
ジャパンカップの予選結果は担当の2人の人が上と下から同時に書き始める。つまり1位と20位から書き始めるのだ。
「えっ?なぜ?まじかよ!ウヒャー、やった!」
20位の所に私の名前があった。ややこしい名字なので間違いのはずはない。♪決勝進出!しかも関東、東海2大会連続だ!急に胸がドキドキしてきた。最終位通過、まったくついてるぜ!それもこれもラストのピンギスのおかげ、途中で30分のロスタイムを覚悟してまで場所を移動したおかげ、蛍光ハリスとガン玉のおかげ・・この3つのおかげとラッキーで勝ち得た決勝だ。あと朝早くに店を開けてくれた森釣具さんのおかげでもある。途中場所を移動した時にはまさかこうなるとは思ってもみなかった・・・さあ、後は再び気持ちを切り替えて決勝だ。竿に付いた汚れを拭き、力糸をつけかえてもうすでに20分後に迫った決勝に向かった。
決勝直前!正直悩んだ・・・
決勝戦は午前10時開始12時終了の2時間、予選上位20名で全国大会の切符をかけて争われる。全国大会はエントリー数により決められる。75人に付き1名、250人出場している今日の大会からは3人が全国大会に進むことが出来る。まあ、一般のキャスターにとっては夢のまた夢だ!
10時まで準備時間は約20分程度、とりあえず竿をふき汚れを取る。今日は海が荒れた後でごみや付着物が多かったので、ガイドも丁寧にきれいにする。微妙に飛距離に関わるのでこういった事を手を抜かずにやることが大切だ。私はいつも釣行が終わるたびに車のワックスを竿にかけ磨いている。よってこんな時でもごみをとり、乾いた布で磨き直すだけでまたつるつるの糸はなれの良いボディーに戻る。大会なので力糸も新しいものに代える。残り5分、あわてておにぎりを1つお茶で流し込み大会本部前に集合する。決勝戦は大会本部下から約1キロの範囲で争われる。予選順位上位から好きなポイントを選び移動する。当然自分は最下位なので最後に場所選択となる。やはり上位の人たちはなるべく東の清水方面目指して歩いて行く。海は朝よりもさらに荒れ、濁りもきつくなっている風も出てきた。この調子では飛距離も伸びず、250人が1時間前に戦った後なので魚も散ってさらに少なくなっているはずだ。
「予選では4匹で最下位だったが、決勝は4匹釣れば優勝かもしれないな・・・」
厳しい戦いになりそうだ。移動の順番が来た。わずか20人で争われるので東方向にポイントも取れないことも無いがここで再びあるひらめきが浮かぶ。
「確か、予選ではこの大会本部下で釣っていた人はあまりいなかったな」
原海岸では水深が浅い方で夏には釣れるもののシーズン初期にはあまり人気が無い本部下の海岸、一見不利な場所だが朝人が少なかったことが引っかかった。そのうえ海岸のじゃりが小さ目でほかの場所より少し投げ易そうなのも惹かれた。
「よし、ここで決めよう!」
ほぼ集合場所の下で釣り座を定める。仕掛けは予選の後半好調だった蛍光ハリスの仕掛けを使う。フグにもアピールしてしまい仕掛けを切られる可能性も高いが、魚に見えなければ話にならないだろうという予想だ。ポイント、仕掛け・・・このように悪天候な日は色々悩むことが多いが、最後は信じることだ。最後まで迷いつづけては自身持って釣りが出来ない。
「ようし、やったろう!どうせ落ちてもともとだった予選最下位だ!」
俺は竿を握り締め開始の合図を待った。
状況が悪い中での戦い!
10時、爆竹が一斉に鳴り響く。第1投!やはり向かい風で5色ちょいしか飛ばない。5色から4色くらいまで、短い範囲を丁寧にさびき、なるべく投げる回数を増やす作戦に出る。周りを見ると遠投して置き竿している人も入るが、こんな海の中の視界が悪い日は魚だって見えにくいはずとさびく方法をとった。確かにさびいているうちにキスの群れを通り過ぎてしまう可能性は高い。特にシーズン初期のまだ遠くにしかキスがいない時はなおさらだ。しかし今日の濁りは今まで原海岸でやったなかでは一番の濁りだ。赤っぽい東京スナメはさらに見えにくいはずだ。途中じゃりめも試してみたが餌すら取られない状況は変わらない。いろんな事を考えながら1回5色付近に置き竿して1服煙草を吸って考えてみた。
その1 ハリを大きくして餌を大きく付け少しでも目立つ仕掛けに変更しよう。
その2 モトスの長さを極力短くして(70センチ)とにかく遠投しよう。
その3 大会用に作ったやや細目の繊細な仕掛けでなく、通常ここで使う時の強い仕掛けで餌を少し暴れさせよう。
これで釣れてなければ変更しようと仕掛けをあげるがやはり餌もとられてない。実行だ!まずは仕掛けを通常の原海岸用、先ハリ湘南キス7号、ほかの2本は同6号、モトスホンテロン2号、ハリス同1・5号のものに変更しモトスを少し切って遠投使用にかえた。それになるべく東京スナメの頭部分を大きく付けた。さっきより餌が大きいだけで目立ちそうな気がする。重りを28号のカイソー天秤にチェンジ、岩に引っかかるのを恐れず半回転投法で投げることにした。トーナメントで湘南キス7号などという大針を使う人はほとんどいないだろう。しかしこんな時は人と同じ事をやっていても始まらない。セオリーを壊す勇気もトーナメントでは必要だ。この仕掛けに変えて2投目投げ込んですぐ6色付近でかすかに当たりがある。
「これはバラせない!」
針はずれ防止のため軽く合わせる。持ち上げる、少し重いしかし流れ藻かもしれない?ゆっくり丁寧に引いてきて仕掛けを波にのせる。ブルブル!魚の抵抗する引きが竿に乗る。
「魚がついてる!」
きつい波打ち際のかけあがりで外れない様波に載せて一気に浜に上げる。
「ええっ!まじですか?」
本命だ!17センチクラスのまあまあのサイズがなんと2匹、ダブルだ!ギャラリーが周りに集る。
「さっき見て回ったけどまだ誰も釣れてなかったよ、今日の海の状況だと2匹で優勝かもよ」
この親父いきなりすごいプレッシャーをかけてくれる。今まさにそのことを意識せずに続けなければと思ったところなのに・・・
「おーいこっちで釣れてるよ」
また他のギャラリーが叫ぶ。あまりに釣れてないので退屈していたギャラリーが沢山集まってきた。
「何色くらいですか?」
「ええ、6色くらいで」
「餌は?」
「東京です」
「ああ、やっぱりね」
いかんいかんいかん!ペースを乱してはいかんのだ!のんびりとしゃべっている暇はないのだ!
「しかし、まだ釣れてないといってたよな・・・この2匹で100グラムちょいはあるかな?」
いかんいかんいかんのだ!そんな、とらぬたぬきの皮算用やってては負けてしまうのだ!あっ、もう負けるとか思ってる、勝ち負けを意識してはいかんのだ!気を取り直し、餌を付け替え投げる体制にはいる。構えに入り後ろを見て仰天する。何人もの人が座り込んでみているのだ。確かに関東大会のときも予選1位だった国の後ろには沢山人がいたっけなあ・・・しかしまいったなあ。とにかく時間がもったいないので投げる。ギャラリーを意識したためか飛距離は出たが斜めに飛んだ。
「ガイド改造してるよ」
「餌のたらしが長いけど切れないかねえ」
後ろで色々な声がする。 2、3 投げして 釣果が伸びないので人が減ってまばらになる。 残り時間あと1時間弱、やっとやりやすくなったなと思ったそのとき、巻き上げるとなんだか少し重い。風も強くなりもはや当たりが分からない状況になっていたので釣れているとは思わなかったが少し丁寧に巻き上げる。15センチほどのキスが釣れていた。決勝3匹目だ!
「おおー!」
ギャラリーから歓声があがる。陽気なおじさんは鳥取でも頑張ってとか言っている。(鳥取は全国大会が開催される予定の弓ガ浜がある)一気に緊張してきた、この状況で意識するなという方が無理だろう。そこに東の方から歩いてきたギャラリーの1行が近くにやってきて話を始めた。
「うん、この人が3匹!トップかもな」(えっ!うそでしょ!)
「でも向こうでも2匹の人がいたねえ、1匹の人は何人かいたよ」(当たり前だろ)
落ち着いて釣りをする環境ではなくなってきた。本部に近いこともあってだんだん人がまた多くなってくる。そのころからうねりと風が一段と強くなる。ただでさえ集中しにくい状況になってきた。
「後1時間弱・・・海の状況はますます悪い。このまま皆釣果が伸びなければひょっとするかもしれない。」
いかんいかんいかんのだ!ここは大物キスで有名な原海岸、実際予選では1匹で200グラム近い大物を釣り、予選突破した人が何人もいたではないか!一匹の大物が勝敗を決する状況では最後の最後までわからない。風はますます強く飛距離はのびない、外道のハオコゼがハリ全部にかかりはじめる。焦る!自分の中にももう1匹追加すれば夢ではないという色気が出始める。30分を切ったあたりから餌も取られなくなってきた。横殴りの風が吹く。次第に選手達が本部に集まり始めた、時計を見ると後5分。もう1投しよう。しかし願いもむなしく仕掛けはそのままで上がってきた。爆竹の音が鳴る。タイムオーバー!いったい勝負の行くへはどうなったのだろう、再び胸が動悸しはじめた。
予想外の結果
今大会、朝の予選のトップは348グラム。ここまでは行かないとして1匹20センチオーバーがくれば約120から150グラムは行く。200グラムくらい行けば上位3位に入るだろう・・・そんな事を考えながら検量所に着いた。心なしか並んでいる人が少ない。後ろを見渡すとまだ遠くからの人が戻っている最中だ。早く来た人はほとんどが1匹、しかもあまり大きなサイズではない。話を聞くと1匹も来なかった人がかなりいるようだ。やはりそれほど決勝での海の荒れ具合はひどかったのである。私は普段仕事の関係上月に1回釣りがやれれば良い方だ。年間釣行12回といったところだろうか。そのため日にちを選べない。行ける時には雨だろうが風が強かろうが竿を出せる喜びをかみしめてやるしかないのである。今日の天気が人より気にならなかったのも、普段からどんな条件でもやるという根性が備わっていたからかもしれない。そして検量、ゼッケン163番、142グラム!どよめきがおこる。それまでのトップは48グラム、今の所ダントツだがぬか喜びは禁物、まだ半分くらいしか検量していない。遠くに行っていた人たちが続々と戻ってくる。なかなか2匹以上釣った人が現れない。
「こりゃ、もしかすると・・・」
マジにどきどきしてきた。これまでやはりトップしかし・・・その時3匹のキスを持った人が検量にくる。150グラム!抜かれた、8グラム差で2位に落ちる。3位までに入れば全国、オリンピックで後の競技者の記録を待つ選手の気持ちが良く分かる。メダルが欲しい!まさにそういう気分だ。最後に3人が向かってきた。後ろに人影が無いのできっとこの3人で終わりだろう。2人に抜かれなければ・・・・今の所3位に48グラム、まったく同点で2人が並んでいる。お互いじゃんけんですかねえ?など話している。本当に落ち着かない様子だ。そして3人が着いた。注目の検量にはいる。2人とも1匹だ、ということは!!!3位以内確定!ばんざい!と叫びたかった所だが、この時まだ本当に実感が湧いていない。まだドキドキしている最中だった。そして最後の人が終了する。87グラム!
「ああー!!!」
さっきまで3位で並んでいた2人が絶叫している。これで1,2,3位決定!
「えっ2位?準優勝?」
本当に実感が湧かなかった。嬉しいはずなのに信じられない気持ちの方がまだ強いのだ。
「では、表彰式に入ります、選手の皆さんは本部前にお越しください」
感無量!ついに表彰台へ
それでは3位までのかたはこちらへお越しください。役員の人に促されて表彰台の2番目に上る。1位になった熊谷さんは雑誌などでもよく見受ける関東では有名人だ。予選では19位、私の一つ前だった。結局予選の19位と20位が優勝と準優勝となったわけだ。
3位が表彰されガラスのトロフィーを受け取る。いよいよ自分の番だがまだ信じられない。
「残り物に福があったってかんじですね」
「この大会は何位でもいいから予選を勝ち抜くことが大事ですよね」
2人で笑い会った。東京に来て5年、このジャパンカップの地区大会予選突破を目標にやってきた。いつかは全国にという思いもあったがあまりに遠い目標で本気で狙うというレベルに自分はまだないと思ってきた。しかし、今それが現実のものとなった。
「では準優勝の表彰です!」
大きなガラスのトロフィーを手渡され主催者と握手を交わす。トロフィーが重い!ようやく勝ったことを実感した。優勝者の表彰が終わり、写真撮影。大会が終わった。
「全国大会は日程が決り次第郵送でお知らせします」
例年ほぼ6月に鳥取の弓ガ浜で行われる。この喜びを報告しよう!国に電話しようと携帯を取り出して思い出した。あいつは仕事でアフリカだ。きっと向こうで今日は大会だな・・・などと思っていることだろう。福岡のクラリスに電話する。驚いてぶっとんでいた。やっぱりこれは大きな事だな・・・全国大会では出場選手の名に恥じないようなプレーをしなければ・・・帰りの車ではまだボーッとして実感が湧かなかった。本当に実感が湧いたのはそれから数日後シマノのホームページに結果画面が出た時だった。
「来年の6月、弓ガ浜!」
頑張るぜ!
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