マルキュー 全日本チヌ 北九十九島大会
Text by Jelly
「飛ばせー!」
クラリスと俺は怒っていた。タシケンが大会会場集合時間を1時間も間違えていたために遅刻寸前なのだ。北九十九島で行われる『マルキュー全日本チヌ』予選会場を目指して飛ばしに飛ばした。集合場所に到着すると急いで登録を済ませ着替える。間もなく大会の開会宣言が始まろうとしていたが約1名揃ってないと大会役員が叫ぶ。
「しばらくお待ちください。」
皆、あーあという表情でしゃがみこんでいる。いやな予感がした。
“もしや・・・!”
やはり遅れて現れたのはタシケン!150人を待たせるいい度胸である。しかし得てしてこんな奴が大会では釣ったりするものだ。奴の通り名は『チヌ・スナイパー!』・・侮れない。今回、俺は昨年の秋に参加した『ダイワ九州クロ釣り選手権』に続いて《フカセ》では2度目の大会参加。これでクロとチヌの大会を1つずつ参加したことになるのでなんだかそれが嬉しい。まるで磯釣り師になったかのような気分を満喫していた。


「アホかお前、マルキューのシール張ってどうするんじゃ!」
選手達は渡されたナンバー・カードを帽子の横に張るのだそうだ。俺は貰ったステッカーを帽子の正面に張りマルキューの帽子に変えてしまうのかと思っていたのだ。朝5時、乗船の時間だ。番号別に船に乗り分け荷物を積み込む。俺は156番、なんだか前向きな番号で気に入った。しかも船に乗った最後の組の番号だ。
“残り者に福がある!”
そういきたいもんである。しかし荷物が重い。というのもクーラーを持っていってるからである。
「余計だな〜、邪魔だにゃあ。」
と文句をいうとクラリス部長がとりあえず長丁場なので持っていけという。しかたなく積み込んだものの不満たらたらであった。しかしこのクーラーが後で大活躍するのだからわからないものである。当然、この時間では俺はそれを知らない。

我々の船は内湾向けの船らしく特に後半はどんどん湾奥に入っていく。最後の順番の俺は案の定、湖の岸辺のような奥地にあげられた。一緒に上がったのはマルキュー・テスターのジャケットを着たジェントルな感じの人でいかにも慣れた感じだ(多分、GTCの緒方さん)。にこやかに挨拶をかわし、荷物を持って上陸する。しかしここで俺は今日最初のミスに気がつく。
「やべー、ライト忘れた!」
西日本とはいえ4月の頭のこの時期の5時は暗い。
“鳥目じゃなくてよかったよ!”
と思いながら岩場を歩いていたその時、一瞬にして体から重力が消えた!!!

『ガガガガガ!!!』
「イテエ!」

俺は苔に濡れた部分に足を滑らせ岩から落ちていた。むこうずねを打っているので絶句するほど痛い。
「くうー!やっちまったか・・・。」
しかし落ちたにしては岩の途中で尚かつなぜかクーラーにまたがっている。
「あれ?」
そうなのだ。クーラーが岩と岩の狭間に挟まったため下まで落ちずにすんだのだ。岩の高さは2m以上あった。まともに落ちていればこんな打撲では済まされなかったろう。少なくともこのまたがった格好を考えると『あそこ』はいやというほど打ち付けたに違いない。クーラーが男の危機を救ってくれたのである。人のアドバイスは聞くものである。足をさすりながらもいい考えが浮かぶ。
「もしかして今日はクーラーが役立つ日?」
アホである。皆さんはこんな馬鹿な解釈をせずライトは忘れないようにしてください。

しかし、こんなに暗くては準備も出来ないので、とりあえずジャンケンして釣り座を決めてからのんびり朝飯を食うことにした。ヤマザキのバナナクリームが旨い!デザートのヨーグルトを頂き、冷たいミルク・ティーで朝の朝食をすませる・・・。

釣り開始まであと15分、やっと糸が見えるほど明るくなってきた。“よっしゃ!準備じゃ。”
10分でタックルを作り終え一服。25mほど先に古い筏があり流れは殆どなく池のようだが、内湾チヌが好みそうな地形だ。藻も適度に生え見た目には少し浅いので越冬チヌは期待できそうにないが、もし、のっこみがいれば寄り付きそうな所である。釣り座が狭いので2人とも竿1本分しか離れてなく、殆ど同じ場所を釣ることになる。場所代わりによる有利不利はなさそうでじっくりポイントを作ることも出来そうだ。煙草の吸殻を携帯ケースにしまい込み柄杓を手に取る。試合開始の6時、まずはマキエを1投げだ。

筏のすぐ手前にマキエの塊を集中的に投げ込み、わずかに筏に向かってジワジワと流れる潮にパラパラと広範囲に軽い奴を撒く。今回はポイントがわからなかったので事前にバッカンの左3分の2に重い比重と軽い比重が混ざったマキエ、右3分の1に軽い比重とイワシ粉を多く入れたマキエを作ってきた。5分ほどしてマキエが馴染んだところで仕掛けを投入した。オキアミMサイズを頭つきでトーナメント・アブミ2号に付ける。グレ鈎だが以前、愛媛の宇和島で初めてチヌを釣ったときの鈎で単なる縁起かつぎなのだ(詳細は釣果報告「邂逅」を参照)。1投目はこれと決めていた。あとは様子を見て変えてゆこう。

15分ほどするとマキエが効き始めたのであろう、その範囲に小さな泡ブクが浮き始める。あまりに小さいので小型かなと思いつつも生体反応を見るとがぜんやる気モードになる。こんな小さな事までわかるのも鏡のようになめらかで穏やかな海だからだ。今回のタックルはロッドがシマノBBX1号530にリールはシマノBBXのEVの2500番。道糸はシマノのDURAサスペンド・タイプ2号、ハリスはサンライン・トルネードの1号だ。ウキは着水音をなるべく起こしたくないので、TEAMアクアのSサイズ、浮力はB。ハリスには最初はガン玉を打たずゆらゆらと落としてゆくことにした。

早速、ウキが軽くしもる。入り込んでいかないので軽く聞き合わせを入れるとカワイイ魚信、あがってきたのはキュートなメバルである。隣の人の安堵感が伝わってくる。これがトーナメントの面白いところだ。ニヤリと笑いリリースする。それからも退屈しない程度に小グレやフグが掛かるのだが大型の魚がいる気配は微塵もない。得体の知れない小魚の群れが優雅に泳ぎまわり、さながらメダカの学校状態である。
“こいつら安心しきっとるな〜。”
悲しい気持ちになるが、いないものはしょうがない。何とか広範囲に宣伝マキエを打ち魚の活性をあげて待つしかない。

小魚と戯れる3時間が過ぎ、釣り座交代の時間になった。相手もまったくアタリすらないらしくまったりムードが磯を支配していた。
「いませんねえ・・・。」
「ここはシーズンには大型が出るところなんですよ。」
「へえー!」
「しかし今年は遅れているからヤバイかもしれませんねえ」
「ヤバイと?」
「小魚が育つ単なる遊び場です。」
「やはり・・・。」
2ヒロ程度の水深しかない湾奥の釣り場・・・。幸せな鳥の声が響く・・・。
“やばい、眠りそうだ。”
隣人もゆっくり御飯を食べている。しょうがない、俺も2度目の朝食をとることにした。

怠惰な時間だけが過ぎていた。ウキを0号に代えたり、鈎を小さくしたりしたが何の意味もなく小魚すら釣れない状況が続いた。ハリスに1号オモリをはめて底を引いてみた。一度キスのようなブルブルっという当たりがあったが鈎掛かりしていなかった。磯で巨ギスを釣っても虚しいだろうなあ、とか思いながら密かに期待して何度か底引きを試みる。
『ガリッ??』
何かに引っかかった。やっぱり岩か?巻くと上がってくる。
“カニだ・・・・。”
小動物との戯れにも飽き、精も根も尽き果てる。
“絶えることも釣りか・・・。”
納竿1時間前にベラが来た。なんだかやっと構ってもらえたようで嬉しかった。

そんなわけで、このままあっさり納竿。隣人も一度、いい型のフグを釣っただけだった。
“これが九十九島か・・・!”
怒りが込み上げる。昨日の練習といい今日といい、小魚以外釣れないではないか!「二度と来るか!」と思いながら迎えに来た船に乗る。しかしトーナメントはこんなところで開催されるわけだし、しょうがない。運と技量がないだけの話だ。海に罪はない。

帰りに釣り人を20人ほど拾う中、一人だけチヌを釣っていた。45cmクラスの結構なサイズだった。その場所は内湾の出口のかなり水深のあるドン深なところだった。いかにも越冬していたという感じの黒いチヌだ。
“いるところにはいるんだな・・・。”
陸に上がるとみんな一様に疲れた顔をしていた。200人近い釣り人が出て10人くらいしか釣れてないのだから仕方がない。サンラインの藤木さんは流石というか2位にはいっていた。全国大会進出だ!やはり上手い人は運もついてくる。運を生かす技術!それが大事だ。


少し遅れて帰ってきたクラリスもタシケンも疲れていた。無理もなかった。最後の楽しみは抽選会、今回はかなりの賞品を用意したので期待してくださいとマルキューの人が言っている。またもやタシケンは遅れて来ていない。しかし抽選も15人ほど進んだところで突然タシケンの名が呼ばれる。その瞬間に現れて記念品を受け取るタシケン!奴は殆どの大会で抽選に当たっているのだそうだ。


帰りはヤケ食い&反省会ということで伊万里の焼き鳥屋『ドライブ・イン鳥』に行くことになった。旨い焼き鳥だった。
“俺はこれを食うために東京から飛行機に乗ってきたんだ・・・。”

感無量だった。テーブルでひときわ「鳥が旨い!」と奇声をあげている男がいた。我がFMAのサイトで名前を見たことがある『グレ次郎』という男だった。このあと12時間後、この男と佐賀の呼子沖に一緒にいることになろうとは・・・・、釣り人生わからないものである。

『マルキュー全日本チヌ釣り選手権』、大会でボウズを食らうと痛い!それを骨身に叩き込んでくれた大会だった。九十九島?もう行きません!