シマノ ジャパンカップ 投(キス)釣り 中部大会
Text by Kuni
5月15日金曜日、朝6時。待ち合わせ場所の鷺沼駅は雨だった。時間どおりジェリーが竿と大きなバッグを背負って改札口から出てきた。職場の渋谷から駆けつけてきたのだ。いつものように徹夜での仕事明けなのだろう、疲れていることは歩いてくる彼の表情からも伺えた。俺はうっとおしい雨を振り払うようにジェリーに言った。
「いよいよやねー。」
曇っていた彼の表情が変わった、ガイキチ・モードの目がよみがえってきたようだった。
「よっしゃー!車で300kmの旅行くぜー!!」
いよいよ、俺達のトーナメント・ツアーが始まるのだ。初戦だ!景気良く行こう。今年は何処で勝利を射止める事が出来るのだろうか、どんな戦績を残すことが出来るのだろうか、そう考えると身が引き締まるのをおぼえた。

途中、チロリ(キボシイソメ)入手のため小田原の宮嶋屋釣具店へ寄る。宮嶋屋の専務は細くてピンク色の旨そーなチロリを用意してくれていた。チロリはその場で洗い直しキズが付いているものと、綺麗で細いものとに仕分ける。試合用に上質のチロリを選別するのだ。親切なお客さんがおいらの手際の悪さをみかねて丁寧に洗い方を教えてくれた。まるで天然記念物の生き物を触るかのように、慎重に行っていた。頻繁に釣りに行く常連達は、自宅でチロリを活かしている人が多い。エサ用冷蔵庫を持っている人も珍しくはない。1週間以上は平気と言うが、それなりのノウハウを持っていないと質を保つことは難しい。綺麗になったチロリは長旅のストレスを与えないように、いくつかのタッパーに小分けする。海水の量、クーラーの温度、すべてのことが完璧に出来ていないとチロリの機嫌が悪くなる。とにかくチロリには細心の注意が必要だ。

愛知県南部に『くわがた』の顎の様に突き出した半島がある、渥美半島と知多半島だ。渥美清の故郷かどうかは知らないが、その渥美半島の突端に大会会場の伊良湖(いらご)表浜がある。メロンの名産地なのだろうか、道路のあちらこちらでメロンの看板が立ち並んでいた。

昼の12時前、やっと伊良湖表浜に到着した。幸い、降っていた雨も止んでいた。渚に出て見ると、延々と砂浜が続き浜の終わりが見えなかった。東の風が強く波にうねりがあり、連日の悪天候の影響だろうか海岸線一帯が濁っていた。この状況は、キス釣りに関しては最悪と言っていい。とりあえず下見開始といきたいが、何処を下見したらいいのか見当が付かなかった。「岩の近くがいい」と記憶にあったが、石門と呼ばれる岩場の近くは濁りが特にひどかった。駐車場近くの会場本部になるであろう場所の下でとりあえず数投してみることにした。

波が起き上がる場所がところどころにあり、底の変化が予測出来た。遠投して早めにさびいてみた。海底の様子や潮の流れ等いろいろなことを把握するためにあえて早めにさびく。4色半に大きな駈け上がりがあり、海が穏やかな時ならこの辺がポイントなのだろう。数投するもキスは付いてこなかった。遠くに4人ほど釣り人が見えるが、この海の状況では釣りをする気が起こらないのだろう、輪になって座り込んでいた。ジェリーはシマノ・NEW・キス・スペシャルの初投げとあり、これまでの竿と調子が全然違うと戸惑いながらも、「軽い!感度が良い!」と絶賛していた。

そうだ、湘南鱚友会のネギヤン大佐に連絡をしてみよう!朝から下見をしていた筈だ、状況を聞いてみよう。連絡を入れると、遠く離れて見えないところで大佐はまだ下見をしていた。なんと5匹釣れたらしい。この海の状況で5匹も釣れるところがあるとは海を良くご存知だ・・・、さすが大佐!!即、移動し大佐と合流した。大佐は蛍光オレンジのウインド・ブレーカーでかなり目立っていた。釣り場のすぐ横に二階建の家ほどの岩があり、『大岩』と呼んでいるらしい。『大岩』のポイントは有名で、大会当日は地元釣り師のための釣り場となり、大会参加者は釣り禁止区域となるそうだ。なるほど、ここはさっきの所よりは濁りが薄い。2kmほど動いただけでこうも違うものか。本部下の海を見て諦めかけていた自分に反省させられた。

おおっと!なんと1投目からアタリがあった。6色ちょいだ。あげてみるとキスは付いていなかったが、キスがいるのはわかった。こちらでも4色半に駈け上がりがある、しかし本部前と比べると傾斜が緩やかである。6色ちょいと4色半がキスのポイントであろうと判断した。2投目はさっきと同じ距離6色でキスが釣れた。ジェリーにもダブルで来た。鈎を交換したり、蛍光ハリスにしたり、ガン玉を打ったり、いろいろ試してみた。単発ではあったが、ポツポツとキスが顔をみせてくれた。二人とも仕掛けの方向性が定まってきたようだった。お互い向き合って笑いだした。
「明日はいけるかなーっ!」
二人の指さした水平線の向こうに、希望の光が射し、中村雅俊の『俺達の旅』がフェード・インしてくるようだった・・。

今回泊まった宿は、会場から車で5分ほどの所にあるガーデン・ホテル。『釣りバカ日誌2』のロケ地となった立派なホテルだ。贅沢をしようとした訳ではない、近くて安い宿が偶々ここだった。部屋に入るとピンク色のベットが二つ並んでいて、野郎二人で泊まるにはちょっと恥ずかしいくらいだった。南側の窓一面がガラス張りとなっていて、太平洋が一望できる。テラスへ出て海を見渡した。海岸線が見渡せる良い景観だ!
「こんな立派なホテルに泊まり、リゾート気分で釣りが出来るのは松方弘樹ぐらいだろう。」
そういいながら竿を手入れするジェリー。昨日徹夜だったのでかなり疲れている。そして本日一番の表情で「やっと寝られるぜ」と言いベットに入った。21時にベット・インしたジェリーはわずか18秒で爆睡した。その直後にジェリーの携帯がブルブルしていたがジェリーは反応しなかった。送信者はクラリスであろう?(違いますよ/クラリス)午前3時16分、目覚まし時計に使っている携帯が鳴った。目覚ましではなくメールだった。
《まだ寝ているのかい?》
クラリスからのメールだった。返事に困った、まだ寝たいがどうしたらいいのだろう?
《もうちょっとねる。》
返信してみたが当然寝れるはずがない。

大会当日、4時30分。駐車場に到着すると、何台もの車が並び沢山の人が準備にとりかかっていた。その賑わいぶりからもこの大会の大きさを実感した。海の様子は、風 ・波とも穏やかになり、濁りも多少治まったようだった。昨日の下見の時よりは状況が良くなり釣果が望めそうだ。予選突破ラインは5匹、100g以上だろうと予測した。